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抗精子抗体とは|精子の動きを止める抗体の検査と人工授精・体外受精の考え方

抗精子抗体とは|精子の動きを止める抗体の検査と人工授精・体外受精の考え方

不妊の検査を受けたときや、妊活について調べているときに「抗精子抗体(こうせいしこうたい)」という言葉を目にすることがあります。名前だけを見ると少し不安になる言葉ですが、どういうもので、見つかった場合にどう考えればよいのかを知っておくと、落ち着いて次の一歩を選べます。この記事では、日本産婦人科医会の研修ノートと、日本産科婦人科学会の学会誌に掲載された解説をもとに、抗精子抗体の基本と、検査・治療の考え方を整理します。精子提供を考えている方にとってどんな意味があるかについても触れます。診断は医療機関が行うものですので、本記事は理解の助けとしてご覧ください。

抗精子抗体とは

抗体は、本来は細菌やウイルスなどの異物から体を守るために、免疫のしくみがつくるものです。抗精子抗体は、その抗体が精子に反応してしまうものを指します。

日本産婦人科医会の研修ノート「不妊カップルに対する検査のアルゴリズム」では、一般的な不妊検査のひとつとして「抗精子不動化抗体」が挙げられており、次のように説明されています。

「精子を不動化する自己抗体の総称で,精子を不活化させ卵子との受精を妨げ免疫性不妊の原因となる.」

このように、抗体によって不妊が起きる状態は「免疫性不妊」と呼ばれます。

抗精子抗体は、女性がもっている場合と、男性がもっている場合があります。日本産科婦人科学会の学会誌(日本産科婦人科学会雑誌59巻9号・2007年)に掲載された、クリニカルカンファレンス「免疫性不妊症」(兵庫医科大学・小森慎二氏)では、「免疫性不妊症の頻度は決して高くはないが,男女ともに不妊症患者においては常に考えなくてはいけない原因である」とされています。同じ解説は、免疫性不妊症の患者さんには臨床でも一定の割合で出会うとも述べています。頻度は高くないものの、男女とも不妊の原因として常に考える必要があるもの、という位置づけです。

どのように妊娠を妨げるのか

同じ解説では、抗精子抗体が妊娠を妨げるしくみとして、主に次のようなものが挙げられています。

  • 女性の体の中で、精子が進むのを妨げる(子宮の入り口の頸管粘液の中を精子が進めなくなる、精子どうしがくっつき合ったり動かなくなったりする など)
  • 受精を妨げる(精子が卵子に結びつくのを邪魔する など)
  • 受精したあとの発育に影響する(受精卵の分裂や着床への影響 など)

ただし同じ解説には、抗精子抗体がすべてこうした作用をもっているわけではなく、抗体によって作用が異なると考えられているとも書かれています。「抗体がある=妊娠できない」という単純な話ではない、ということです。

どんな検査で調べるのか

女性の抗精子抗体については、同じ解説で、精子の動きを止める働きをもつ抗体(精子不動化抗体)が、不妊症の患者さんに特異的に検出されると説明されています。血液(血清)を使って、精子の動きが止められるかどうかを調べる検査です。

同解説は、抗体があるかどうかだけでなく、抗体の強さ(抗体価)を測ることが非常に重要だとしています。また、抗体価を時間を追って調べると、かなり変動することが明らかになったとも書かれています。結果の受け止め方や再検査の要否は、医療機関で確認することが大切です。

男性が抗精子抗体をもっている場合、射精された精子にはすでに抗体が付いているとされています。抗体を調べる方法として、同じ解説では、運動している精子に結合する抗体を調べるMAR試験やイムノビーズ試験などが紹介されており、一般的な精液検査(精子の数や運動率を見る検査)とは別のものです。

このほか、性交のあとに子宮の入り口の頸管粘液を採取して、精子が動いているかを調べる「性交後試験(フーナーテスト)」という検査もあります。抗体そのものを測る検査ではなく、性交を前提にした検査です。日本産婦人科医会の研修ノート「女性患者の検査・診断」によると、検査時間や正常とする基準は施設ごとに異なるのが現状とされ、WHOの検査マニュアル第6版(2021年)では臨床検査としてもはや施行されなくなったとして記載が廃止された、とも書かれています。なお、日本産婦人科医会の研修ノート「不妊カップルに対する治療のアルゴリズム」では、米国の学会の指針が、原因不明の不妊に対するスクリーニング検査として性交後試験や免疫検査を推奨していないことも紹介されており、検査の位置づけは指針や施設によって扱いが分かれます。どの検査を行うかは医療機関によって異なりますので、受診先でご確認ください。

検査の費用も医療機関によって異なりますので、あわせて確認しておくと安心です。妊活の前に受けておきたいほかの検査については精子提供を受ける前に必要な検査と準備まとめ、卵管の検査は卵管造影検査とは?精子提供前に知っておきたい不妊検査の基本で解説しています。

治療の考え方|抗体の強さや、抗体が付いた精子の割合で方法を選ぶ

同じ解説には、抗精子抗体が見つかった場合の治療として、次のような方法が挙げられています。

  • 女性に抗体がある場合:人工授精(くり返し行うことを含む)、体外受精 など
  • 男性に抗体がある場合:洗浄した精子を用いた人工授精、体外受精、顕微授精 など

同解説は、このようにさまざまな方法があるものの、現在では体外受精や顕微授精が適応されているとしています(2007年の掲載時点の記述です)。女性に抗体がある場合について、同解説の執筆施設が過去の治療成績を振り返った結果、抗体の強さが一定以上の方では、人工授精では妊娠が成立せず、体外受精でのみ妊娠が成立していたことが報告されています(この治療成績は1990年に発表された検討をもとにしたものです)。

男性に抗体がある場合は、射精された精子にすでに抗体が付着しています。同解説では、抗体が付着した精子の割合が高い場合に体外受精での受精率が下がることが報告されているため、顕微授精(精子を卵子に直接注入する方法)が適応になってくるとされています。顕微授精については顕微授精(ICSI)とは?体外受精との違いと適応ケースをわかりやすく解説をご覧ください。

なお、この解説は2007年に掲載されたもので、紹介されている治療成績にはそれ以前の検討も含まれます。治療の細かな手順はその後も見直されている可能性があります。女性では抗体の強さ、男性では抗体が付いた精子の割合に応じて方法を選ぶという基本の考え方を知ったうえで、実際の治療方針は主治医とご相談ください。

精子提供を考えている方にとっての意味

精子提供による妊活では、シリンジ法(精液を膣内に注入する方法)や、医療機関での人工授精が選ばれることがあります。どちらも、精子が女性の体の中を進んで卵子に届くことを前提にした方法です。女性側に強い抗精子抗体がある場合には、この過程で精子が影響を受けることがあります。先に見たように、抗体の強さが一定以上の方では、人工授精では妊娠が成立せず体外受精でのみ成立していたという報告もあります。

同解説の執筆グループの検討では、女性の精子不動化抗体が反応する相手(抗原)は、精巣の中の精子にはなく、精巣上体(精巣の隣にある精子の通り道)から分泌されて精子の表面に付く分子で、精漿(精液の液体部分)にも多く含まれると報告されています(抗原の詳しい性質は今後の研究が待たれるとされています)。特定の男性に限った性質として示されてはいないため、精子の提供元を変えれば影響がなくなるとは言い切れない点に注意が必要です。

医療機関で提供精子を用いる方法には、学会の見解で対象となる方が定められているものがあり、ご状況によっては受けられる医療機関が限られます(AIDについては下記のご案内で詳しく説明しています)。医療機関で抗体を指摘された場合に、どのような進め方ができるかは受診先でご確認ください。

抗精子抗体は頻度の高いものではありませんが、同解説は臨床で一定の割合で見られるとも述べています。結果が出ないときには原因を医療機関で確かめることが大切で、年齢によっては早めの受診が勧められています。日本産婦人科医会の研修ノート「不妊カップルに対する治療のアルゴリズム」では、避妊しない性交渉を12カ月続けても妊娠しない場合は不妊検査を受けるべきとされ、35歳以上の女性では6カ月で早めの評価が推奨され、40歳以上の女性ではより早期の評価が必要とされています。この目安は性交渉を前提にしたもので、精子提供による妊活の回数にそのまま置き換えられるものではありません。ご年齢が気になる方は、早めに医療機関へご相談ください。結果が出ないときの考え方は精子提供で妊娠できない…落ち込む前に試したい次のステップとはに、回数や期間の目安は精子提供で妊娠するまで何回かかる?回数と期間の目安をデータ解説にまとめています。

方法ごとの向き・不向きは人工授精(AID)・体外受精(IVF)・シリンジ法の使い分け|精子提供でどの方法を選ぶべきかで整理しています。当バンクでのご提供はシリンジ法、または医療機関での方法のみです。医療機関での方法をご希望の方には、ご状況に応じて提携医療機関のご紹介にも対応しています(ご紹介の可否や範囲はプランによって異なります)。人工授精や体外受精は医療機関で行われるもので、当バンクが行うものではありません。AIDについてはAID(提供精子を用いた人工授精)を考えている方へ|対象になる方・受けられる場所・別の選択肢で詳しくご案内しています。医療機関での方法をお選びの場合、人工授精や体外受精、各種検査の費用は医療機関にお支払いいただくもので、当バンクの費用とは別に発生します。当バンクの関わり方はクリニック紹介のページでご案内しています。

パートナーの精子で妊活をしている場合

パートナーの精子で妊活をしている場合も、抗精子抗体は女性側・男性側のどちらにも起こりえます。男性側の検査は精液検査が基本で、抗精子抗体を調べる場合は、先に触れたように精子に付いた抗体を調べる別の検査になります。精液検査の見方は精液検査の見方|精子濃度・運動率・正常形態率の基準値を解説に、男性不妊のホルモン検査については男性不妊のホルモン検査とは|FSH・LH・テストステロンでわかることにまとめています。

抗体が見つかった場合でも、先に見たように、女性では抗体の強さ、男性では抗体が付いた精子の割合に応じて、人工授精や体外受精、顕微授精といった方法が選ばれています。パートナーの精子で妊娠を目指す道が閉ざされるわけではありませんので、まずは主治医と方針を話し合ってみてください。

よくある質問

抗精子抗体があると、妊娠はできないのでしょうか。

そうとは限りません。本文で紹介した解説でも、女性では抗体の強さ、男性では抗体が付いた精子の割合に応じて人工授精や体外受精、顕微授精が選ばれ、妊娠に至っている例が報告されています。また、抗体によって作用が異なると考えられています。どの方法が合うかは医師とご相談ください。

抗精子抗体の強さは変わることがありますか。

同じ解説では、抗体の強さを時間を追って測ると、かなり変動することが明らかになったとされています。一度の結果だけで判断せず、検査の時期や再検査の必要性も含めて医療機関で確認してください。

検査はどこで受けられますか。

不妊治療を行う医療機関(婦人科・生殖医療の施設)が相談先になります。男性の場合は、泌尿器科(男性不妊を扱う医療機関)も相談先です。行っている検査の種類や費用は施設によって異なりますので、受診前に確認しておくと安心です。

ドナーを変えれば妊娠しやすくなりますか。

女性側の抗精子抗体が原因の場合、抗体が反応する相手は精子の表面に付く分子で、精漿にも多く含まれると報告されており、特定の男性に限った性質としては示されていません。そのため、提供元を変えれば影響がなくなるとは言い切れません。結果が出ないときは、ドナーの見直しを考える前に、医療機関で原因を確かめておくことをおすすめします。

ご相談を承っています

くり返しになりますが、ロジカル精子バンクは医療機関ではありません。抗精子抗体の検査や診断、治療方針の判断は、医療機関にご相談ください。この記事は、日本産婦人科医会の研修ノートと日本産科婦人科学会の学会誌に掲載された解説をもとに、全体像を整理したものです。

そのうえで、検査や治療の経過を踏まえて精子提供という選択肢について知りたい、進め方を整理したいという段階でのご相談をお受けしています。ご入会後の進め方はご利用の流れにまとめています。気になることがあればお問い合わせからお気軽にお声がけください。

※ 当バンクは医療機関ではありません。診断・治療・妊娠を保証するものではなく、医学的なご判断は医療機関にご相談ください。

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