精子提供の基礎知識

射精障害・EDと男性不妊|性機能の悩みで妊娠しにくいときの検査と治療

射精障害・EDと男性不妊|性機能の悩みで妊娠しにくいときの検査と治療

男性不妊というと、精子の数や動きの問題を思い浮かべる方が多いと思います。けれども、精子はつくられているのに、勃起や射精がうまくいかないために妊娠に結びつかない、というケースもあります。これは「性機能障害」と呼ばれ、男性不妊の原因のひとつに数えられています。この記事では、日本泌尿器科学会の『男性不妊症診療ガイドライン2024年版』をもとに、勃起障害(ED)と射精障害が不妊とどう関わるのか、どこに相談し、どのような治療の選択肢があるのかを整理します。先に結論をお伝えすると、同ガイドラインはEDと射精障害それぞれについて「治療可能な病態を見極め適切な治療を行う」とし、それが難しい場合には個々の状況に応じて生殖補助医療へ移行するとしています。ご自身の精子で妊娠を目指す方法が複数ある分野です。診断は医療機関が行うものですので、本記事は理解の助けとしてご覧ください。

国内の調査では、男性不妊の原因は大きく3つに分類される

国内の全国調査では、男性不妊の原因を大きく「造精機能障害(精子をつくる力の問題)」「性機能障害」「精路通過障害(精子の通り道の問題)」の3つに分類しています(海外では分け方が異なる報告もあります)。

同ガイドラインには、厚生労働省の平成27年度の調査研究「我が国における男性不妊に対する検査・治療に関する調査研究」をもとにした内訳が載っています。男性不妊症の診療施設を対象にしたこの調査では、造精機能障害が82.4%、性機能障害が13.5%、精路通過障害が3.9%でした。男性不妊症全体に占める割合で見ると、ED(勃起障害)が6.1%、射精障害が7.4%(合わせて13.5%)です。性機能障害は原因の第2位にあたり、同ガイドラインは「男性不妊症の原因に占める性機能障害の割合は増加している」とも記載しています。

割合としては造精機能障害が大半ですが、性機能障害も決して珍しいものではない、ということがわかります。

ED(勃起障害)と不妊の関係

EDは、同ガイドラインに引用されている国内のED診療ガイドラインで「満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られないか、または維持できない状態が持続または再発すること」と定義されています。

EDには、血管や神経に原因があるものと、心理的な要因によるもの(心因性)があります。同ガイドラインでは、不妊の場面でみられるEDは心因性のものが多いとされ、自慰はできるものの、パートナーとの性交の場面になると勃起が難しい、あるいは挿入はできても射精に至らない、といった状態が挙げられています。

その背景として同ガイドラインが挙げているのが、妊活や不妊治療で排卵日に合わせて性交するよう求められることのプレッシャーなどです。妊活をきっかけに起きることがある、ということは、知っておくと気持ちが少し楽になるかもしれません。どちらかが悪いという話ではありません。

一方で、同ガイドラインには、まったく勃起しないなど血管や神経の検査が必要と考えられる場合には、性機能の専門医へ紹介するとも書かれています。「気持ちの問題だろう」と自己判断せず、受診して原因を確かめることが大切です。

射精障害とは|不妊で問題になるのは2つ

射精障害にはいくつかの種類がありますが、同ガイドラインは、不妊症で問題となる射精障害を「射精不能」と「膣内射精障害」の2つとしています。

射精できない状態(逆行性射精を含む)

射精の感覚があっても精液が外に出てこない状態のひとつに、逆行性射精があります。膀胱の出口がうまく閉じないために、精液が膀胱の側へ流れ込んでしまう状態です。同ガイドラインは原因として、前立腺の手術や腹部・骨盤内の手術、脊髄損傷、一部の薬剤、糖尿病、神経の病気などを挙げています。オルガズムのあとの尿の検査で精子が確認されることで診断されます。

なお同ガイドラインには、逆行性射精は「不妊症の原因となる以外に特に害はない」ため、不妊が心配される場合に治療が必要になる、と書かれています。ただし背景に糖尿病などの病気や服用中の薬が関わっていることもありますので、原因の確認も含めて受診をおすすめします。

このほか、精液がそもそも送り出されず、外にも膀胱にも射精されない状態もあります。射精障害全体の原因としては、糖尿病や脊髄損傷、骨盤内や後腹膜の手術などが挙げられており、同ガイドラインは、これらの多くも薬や手術(TESE)などで治療は可能としています。ただし、精液が送り出されないタイプについては、確立された飲み薬はないとされています(治療の選択肢は後述します)。

膣内射精障害

自慰では射精できるものの、膣内では射精できない状態を指します。同ガイドラインによると、欧米の文献には相当する用語が見当たらない一方で、国内では多くの患者さんがいることが報告されており、妊娠を希望する場合に特に問題になっているとされています。原因としては、思春期からの自慰の方法の癖(強い刺激や、特定の姿勢でしか射精できないなど)によるものが多数を占めるとされ、医療機関では自慰の方法の指導などが行われています。

どこに相談する?まずは問診と、精液の検査も

男性の性機能の相談先は、泌尿器科(男性不妊を扱う医療機関)です。カップルで不妊治療を行う施設で相談できる場合もあります。

同ガイドラインでは、EDでも射精障害でも、まず問診で原因となる病気や服用中の薬を詳しく確認することが大事だとしています。薬の影響が考えられる場合もあるため、飲んでいる薬があればお薬手帳を持参するとスムーズです。

また、見落とされやすいのが、性機能障害と造精機能障害(精子をつくる力の問題)が併存する可能性があるという点です。同ガイドラインは、性機能障害の治療を行う際にも造精機能の評価が必要だとしています。つまり「原因は性機能のほうだから、精子は大丈夫」とは限らないということです。精液検査の見方は精液検査の見方|精子濃度・運動率・正常形態率の基準値を解説に、ホルモンの検査については男性不妊のホルモン検査とは|FSH・LH・テストステロンでわかることにまとめています。

治療の選択肢|ガイドラインの整理

ここからは、同ガイドラインに書かれている治療の考え方を、病態ごとに整理します。どの方法が合うかは医師の判断になりますので、全体像をつかむための参考としてご覧ください。

EDの場合

まず治療可能な原因やリスクとなる要因がないかを確認したうえで、治療としては勃起を助ける飲み薬(PDE5阻害薬)が使われます。同ガイドラインは、EDによる男性不妊症に対してこの薬を「推奨される」(推奨グレードA)としており、医師がEDと診断したうえで、男性不妊症の保険診療として処方できる薬があることも記載しています。

一方で、同ガイドラインには、狭心症などに使われる硝酸薬との併用は禁忌で、急激な血圧低下を引き起こすことも明記されています。持病の薬との飲み合わせを含めて判断が必要ですので、医師の診察を受けたうえで処方を受けてください。

また、EDのために膣内での性交が難しい場合でも、子どもを強く望むときには、自慰で採取した精液を用いた人工授精を行うことがあり、自慰でも射精できない場合には精巣から精子を採取して顕微授精を行うこともある、とされています。

逆行性射精の場合

まず、原因となっている薬があれば中止できるかを医師が検討し(自己判断で薬をやめるのは避けてください)、薬で膀胱の出口を締める働きを高めて、精液が外に出る状態(順行性射精)に戻すことを目指します。ただし同ガイドライン(2024年版)の時点では、こうした薬はいずれも本来の適応とは別の使い方(適応外使用)で、逆行性射精に対して保険診療で認められた薬はないとされています。薬が効かない場合は、膀胱内の精子を回収して人工授精・体外受精・顕微授精に用いる方法があり、それも難しい場合には精巣から精子を採取する方法(TESE)が行われるとされています。薬の状況は変わることがありますので、受診先でご確認ください。

膣内射精障害の場合

自慰の方法の見直しや指導などが行われ、さまざまな治療がうまくいかない場合には、自慰で採取した精液を用いた生殖補助医療が行われるとされています。厚生労働省が定める保険診療のルールでも、人工授精の対象のひとつに「射精障害・性交障害」が挙げられています。

精液が送り出されない場合

精液が送り出されないタイプの射精障害には、確立された飲み薬はないとされています。器具を用いて射精を促す方法(報告はあるものの、診療の実態は詳しくわかっていないとされています)などで得られた精液を人工授精や顕微授精に用い、それでも精液が得られない場合や妊娠に結びつかない場合には、精巣から精子を採取する方法が行われます。

精巣内精子採取術(TESE)は2022年4月から保険適用となっており、2026年度(令和8年度)の診療報酬改定後の厚生労働省の通知でも、ほかの方法では体外受精や顕微授精に用いる精子が採取できないと医師が判断した場合には、射精障害も対象に含まれています。保険で行う場合には女性の年齢などの条件もあります。手術の内容はTESE/Micro-TESE(精巣内精子採取術)とは?適応・費用・成功率の現状、顕微授精については顕微授精(ICSI)とは?体外受精との違いと適応ケースをわかりやすく解説で解説しています。

いずれの場合も、同ガイドラインはパートナーの年齢や、カップルの子どもを望む気持ちなど、個々の状況に応じて考える必要があるとしています。

ふたりで向き合うために

性機能の悩みは、ほかの不妊の原因と比べても口にしにくいものです。ご本人が一人で抱え込んでしまうことも、パートナーが「自分のせいでは」と感じてしまうこともあります。

ここまで見てきたように、性機能障害には治療の手立てがあり、原因によっては妊活のプレッシャーそのものが関わっていることもあります。責める・責められるの話ではなく、治療の対象になる状態のひとつとして受け止め、医療機関に相談することが近道です。通院と仕事の調整が気になる方は不妊治療・妊活と仕事の両立|通院の目安と職場に相談するときの伝え方もご覧ください。

精子提供という選択肢は、どんなときに考えるものか

性機能障害だけが原因であれば、ここまでに挙げたように、ご自身の精子で妊娠を目指す方法がいくつもあります。精子提供は、性機能障害があるからといって最初に考えるものではありません。

一方で、検査の結果、精子をつくる力の問題が併存していて精子が見つからない(無精子症)と分かることもあります。無精子症の分類と治療の考え方は閉塞性無精子症(OA)と非閉塞性無精子症(NOA)の違い|TESEの位置づけと選択肢に、診断を受けたあとの全体像は無精子症と診断されたら|原因・分類・治療と精子提供という選択肢にまとめています。

治療を続けても難しいと分かったときに、治療を続ける、第三者からの精子提供を考える、養子縁組を考えるなど、進み方はひとつではありません。気持ちの整理については【男性不妊】血の繋がりか、育てる絆か。第三者提供(AID)を決断するまでの「心の整理」とステップを、精子提供を考えるときの夫婦の話し合いについては精子提供は夫婦関係にどう影響する?すれ違いを防ぐためにできることを、これから調べはじめる方に向けたご案内は無精子症と診断されたら|精子提供という選択肢をご覧ください。精子提供はあくまで選択肢のひとつで、治療を否定するものではありません。

よくある質問

ED治療薬は自分で手に入れて使ってもよいですか。

同ガイドラインには、硝酸薬との併用で急激な血圧低下を起こすことが記載されています。持病やほかの薬との飲み合わせを確認する必要がありますので、医療機関で診察を受けたうえで処方を受けてください。同ガイドラインには、医師がEDと診断したうえで、男性不妊症の保険診療として処方できる薬があることも記載されています。

逆行性射精は体に悪いのでしょうか。

同ガイドラインでは、逆行性射精は不妊症の原因となる以外に特に害はないとされています。ただし、背景に糖尿病などの病気や服用中の薬が関わっていることがあるため、原因の確認も含めて受診をおすすめします。

自慰なら射精できます。それでも治療が必要ですか。

膣内射精障害の場合は、まず自慰の方法の見直しなどの指導が行われ、うまくいかない場合に、採取した精液を用いた人工授精などが検討されます。パートナーの年齢や子どもを望む気持ちによって進め方は変わりますので、医師とご相談ください。

泌尿器科と婦人科、どちらに行けばよいですか。

男性の性機能や精液の検査は泌尿器科(男性不妊を扱う医療機関)が相談先になります。カップルで不妊治療を行う施設では、男女両方の検査を受けられる場合もあります。受診先の診療内容を事前にご確認ください。

ご相談を承っています

くり返しになりますが、ロジカル精子バンクは医療機関ではありません。勃起障害や射精障害の診断・治療、検査結果の解釈は、医療機関にご相談ください。この記事は、日本泌尿器科学会の『男性不妊症診療ガイドライン2024年版』などをもとに、全体像を整理したものです。

そのうえで、治療の経過を踏まえて精子提供という選択肢について知りたい、進め方を整理したいという段階でのご相談をお受けしています。ご入会後の進め方はご利用の流れにまとめています。気になることがあればお問い合わせからお気軽にお声がけください。

※ 当バンクは医療機関ではありません。診断・治療・妊娠を保証するものではなく、医学的なご判断は医療機関にご相談ください。

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